近年、予約サイトやアプリなどで気軽に予約ができるシステムが浸透しています。その影響から、予約の無断キャンセルやドタキャンが増加しています。その結果として現在、飲食店側の損失が問題となっています。キャンセルが発生したことによる損失は、年間にするとおよそ数千億円にのぼります。
この記事では、顧客から予約の無断キャンセル・ドタキャンなどをされた場合の損失について具体的に掘り下げ、またそれらを抑止する対策について詳しく紹介します。
目次
飲食店における予約キャンセルの現状
経済産業省が取りまとめたガイドラインによると、無断での予約キャンセルが発生した際の損失はおよそ2,000億円にのぼると言われています。さらに、1日前や2日前などの直前のキャンセルを含めた場合はさらに膨れ上がります。その損失額は1兆円を上回る計算になるようです。
特に無断キャンセルの場合は、飲食店がキャンセル料を請求することがままなりません。そのため、想定された売上額はもちろんのこと、廃棄せざるをえない食材や時間的コストなどさまざまな要素において大きな損失を被ることになります。
他業種のキャンセルへの対応
予約行為が必要である他業種の場合を見てみると分かることがあります。例えば旅館・ホテルなどの宿泊業において、多くの場合でキャンセル料を設定してます。また、宿泊者は予約時にキャンセルポリシーの内容に了承したものとして締結されます。
それでもやむをえず予約をキャンセルする場合もあります。その場合は、予約当日までの日数をもとにキャンセル料を設定していることが多いです。特に、当日にキャンセルもしくは連絡なしのキャンセルとなった場合は宿泊料の100%を請求することも少なくありません。
宿泊業では予約キャンセル時における損失が大きくなりがちです。そのことからキャンセルポリシーが設定されている、と解釈できるでしょう。一方で、飲食業においても損失が大きいことは前述しました。しかし、現状はキャンセル料を設定している店舗は宿泊業ほど多くはありません。
少々古いデータではありますが、2018年に実施された調査において、およそ7割超の飲食店が「予約キャンセルの対策をしたことがない」と回答した結果もあります。
予約キャンセルによる飲食店の損失
では、飲食店が予約をキャンセルされてしまった場合に発生する損失とは、具体的にどのような内容なのでしょうか。
売上の低下
まずは、売上そのものの低下が挙げられます。仮に店舗の平均利用額が2,000円で5人分の予約がキャンセルされてしまった場合を想定します。その場合、10,000円もの利益が宙に浮いてしまうことになります。
これに加え、予約に合わせてシフトを決めた場合はさらに損失が発生してしまいます。要するに、従業員やアルバイトスタッフの人件費損失です。忙しい現場など他にも顧客の対応が必要である場合は問題ありません。しかし、大人数の予約時などに合わせたシフトスケジュールを組んだ場合、人的コストの転用が難しいため直接的な損失を被る可能性が高くなるでしょう。
食品ロスの発生
また、コース料理などあらかじめ顧客に出される料理が決められている予約もあります。コースの予約であればそのすべての料理とドリンクなどがすべて廃棄となります。結果、大量の食品ロスが発生します。
食品ロスは日本のみならず、飲食店にとっては世界的な課題です。食品ロスの課題はありつつも、他の顧客に提供する予定だったものは利用することはできません。そのため、結局は廃棄せざるを得ない形になるでしょう。
座席の圧迫
売上や食品ロスとともに懸念されるのが、「機会損失」の影響です。予約で埋まってしまった座席を他の顧客に回せないことによるものです。予約を推奨する飲食店は、それだけランチやディナータイムなどのピーク時は満席になる可能性が高い店舗ということになります。
この場合、予約なしで訪れた顧客は断らなければいけません。しかし、予約のキャンセル連絡がないと、そのまま席が確保された状態となります。そのため、空席があるのに顧客の入店を断ることになります。
つまり、予約によって生じるのは売上の損失だけでありません。他の顧客を店舗に受け入れられないことによる機会損失によって、さらに多くの売上が無に帰す可能性が高まるのです。
顧客が予約キャンセルをする要因
店舗側にとっては非常に損失が大きい直前の予約キャンセルです。一方、問題になるほど顧客が予約キャンセルをしてしまう理由はどこにあるのでしょう。
予約のプロセスが簡単になっている
まず始めに、予約ポータルサイトなどの増加による、予約システムの簡略化です。店舗と連絡を取らなくとも予約が取れるシステムを利用する顧客の多い点が挙がります。このようなシステムが無かった時代では、予約をするのもキャンセルをするのも店舗側との連絡が必須条件でした。
ところが現在では、「予約サイト」「グルメサイト」と呼ばれる顧客と飲食店を仲介するサービスでの予約が主流となったことで大きく変わります。、顧客にとって「予約」という行為のハードルは各段に下がりました。
株式会社テーブルチェックが調査した「飲食店のキャンセルによる意識調査のデータ」を見ると、「とりあえず席が埋まる前に予約だけしておこう」といったアクションが増えていることがわかりました。そして、とりあえず予約だけしたが、予約していることを忘れてしまっていた。などの理由でキャンセルする人が増えていると予測しています。
ポイント付与のため
予約ポータルサイトなどの一部サービスには、利用することでポイントが付与されるシステムのものがあります。予約していたお店をキャンセルした場合は、ポイントは付与されないことが原則です。ところが、店舗に連絡をせずに無断キャンセルをすると、予約ポータルサイト側としては気付くことができません。そのため、そのまま店舗を利用をしたという認識がなされてしまうことがあります。場合によってはそのままポイントが付与されてしまう、というケースも見られました。このような理由から、わざとポイント付与を狙って予約行為だけをするユーザーも存在しているようです。
店舗と連絡が取れなかった
また、少数ではあるものの「キャンセルしようと思ったら連絡が取れず、結局のところ無断キャンセルになってしまった」というケースもあるようです。
これは顧客側ではなく店舗の責任であります。たとえピークタイムであってもしっかりと連絡を取れる体制を確保することが重要です。これが改善されなければキャンセル問題が解決しないどころではありません。顧客からの信用を失う原因につながるため、早急の対応が必要でしょう。
キャンセルポリシーが設定されていない
先ほども触れたとおり、宿泊業と比較すると飲食業の店舗はキャンセルポリシーが設定されるケースはあまり多くありません。そのため、キャンセルの連絡は顧客の良心にまかせられています。
一方で、気軽に予約をした顧客の中には、「キャンセル時の対応が書かれていないうえに、自分は食事をしていない(店舗に訪れていない)のだから料金を払う必要はない」と考える人もいるかもしれません。
このようにルールが曖昧な状態では、たとえ店舗側に大きな損失が発生する状況であっても「ちゃんと連絡しよう」と顧客に行動を起こしてもらえない可能性があります。
予約キャンセルを増やさないために店舗ができる対策
では、無断キャンセルなど故意のキャンセル行為を抑止するために、店舗側が対策できることは何があるのでしょうか。
キャンセル料・キャンセルポリシーの明記
まずは、「キャンセル行為は店舗にとって損失であること」を理解してもらいましょう。そのために、キャンセル料金やキャンセルポリシーなどのルールを予約時に承諾してもらうようにしましょう。
キャンセル料金の設定やキャンセルポリシーの具体的な内容は店舗によって変わります。
「故意によるものと判断された場合は損害賠償が発生する可能性もある」のような内容を明記することでキャンセル行為の抑止力となるでしょう。
ただ予約をキャンセルしただけで大げさな、と思われるかもしれません。しかし、過去には飲食店の予約キャンセルを意図的に繰り返した悪質な事例として、逮捕者が出たケースもあります。
また、故意の無断キャンセルを防ぐために、「予約時間から一定時間経過するとキャンセル扱いになる」といったルールを追加するのも効果的です。この方法はルールとして時間制限を設けることで無断キャンセルの抑止となります。また、ルールとして時間制限を設けることで席の回転率を上げられます。
リマインダー機能などで予約内容をお知らせ
予約の無断キャンセルをしてしまった人の中には、「うっかり忘れてしまった」という故意ではないケースもあるでしょう。
このような顧客の機会損失を防ぐためには、リマインダーや前日通知の機能などを使いましょう。例えば、顧客に予約日をお知らせするシステムを採用すると良いかもしれません。
お知らせの方法はアプリを経由したり予約時に登録したメールアドレスに向けて送信したりとさまざまです。一方、顧客側にとっては予約内容と日時の確認が済ませられるため安心です。
デポジット(一部前払い)を導入
予約と同時に前払いで先に支払いを済ませるシステムやデポジット(一部前払い)制を導入している店舗もあります。特に、キャンセル料を導入しない店舗で増えている方法として有効な手段といえます。
予約時に支払いを済ませておくことは、顧客の「とりあえず予約だけする」「面倒だから連絡しない」といった行動の抑制が期待できます。
また、事前に決裁を済ませておくことで、当日の顧客への誘導がスムーズになります。会計の時間が不要となるメリットも考えられるでしょう。
店舗連絡のしやすさを改善
これまでは「予約キャンセルを抑止する」スタンスでの防止策をご紹介しました。反対に「キャンセル連絡を楽にできる」という方向性での対策もあります。
外部の予約サイトやアプリなどを導入している場合、こうしたツールでキャンセル連絡の行動を取ってもらいやすい環境に整えられている事が多くあります。外部ツールを使う上で、解決策の一つとして有効な方法と言えます。
「電話連絡は時間がないけれどメッセージを送るだけなら」と、連絡手段のハードルが下がります。それにより、コンタクトが取りやすいシステムにできると効果的です。
また、連絡手段を一つだけに絞っていると、万が一の場合が発生するかもしれません。例えば電波障害のトラブルが発生し、連絡が取れないトラブルが考えられます。複数の連絡手段を用意しておくことで、予期せぬ障害トラブルなどの問題回避につなげられるでしょう。
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まとめ
予約キャンセルによる飲食店の損失は決して小さなものではありません。たとえ1グループであったとしても貴重な機会損失を招きます。そのため、できるだけ発生しないように工夫しなければいけません。
キャンセルの対策として、顧客との連絡手段を潤沢にする、前金を支払ってキャンセルへの抑止力を高める、などの方法が有効であることを解説しました。ルールやシステムを整備するためのコストが必要となります。予約キャンセルに悩まれている方はホームページに注意を記載することを対応策の一つとしてご検討ください。